純正律
純正律 (just intonation, JI)は、 調律 のアプローチのうちの一つで、全ての音程が有理数 比率で表される。純正音程は自然倍音列の中に、任意の2つの倍音の間の音程として、自然に現れる(楽音であること、つまり倍音が基本周波数の整数倍である音であることを前提とする)。例えば、周波数比 3/2 の音程は第2倍音と第3倍音の間に現れる。純正律は楽音を発生させる楽器において効果的である。
理論的には、純正音程は対応する有理数と同様に無限に存在する。実用上は、制約をかけて音程を(協和音を残しつつ)妥当な数まで減らす。よく使われる制約はジェネレーターの形式によるもの(リミットなど)、分母や分子を固定するもの(primodality (en) など)、複雑性指標によるものなど。複数の制約を組み合わせて使うこともある。リミットとアドリミットなど。
20世紀以前の西洋音楽理論の文脈において、just intonationという語単独では5リミットのチューニングを指す。ベン・ジョンストンによるExtended just intonationはより高いリミットを指す。[1] 制約なしの純正律をrational intonation (RI) または free style JIと呼ぶことがある。
純正律の構造は作曲においていくつかの影響を生む。ウルフの音程とコンマという2種類の不協和音程が、遠い関係の音高の間に現れる。加えて、特定のコード進行がコンマポンプ (en) となる。これは、一連の進行で元の音高に戻っているつもりが、実際には(異名同音やそれに類する状態になっていて)コンマの分だけ音高がずれてしまうことをいう。これらは機能とも解決すべき問題ともとらえられる。問題を解く方向のアプローチがadaptive just intonationとテンペラメントなどである。
説明
英語以外の言語では、"純正律"の最初の概念が用語の中により明らかな形で存在しています。ドイツ語のReine Stimmung ("pure tuning"、つまりうなりのない調律)、ウクライナ語の Натуральний стрій とフランス語の gamme naturelle (どちらも "natural scale"、つまり倍音列から得られる音程)、イタリア語の intonazione naturale ("natural intonation"、これも同様に倍音列から得られる音律)、のように。
英語での "just" は"正しい(真である/正解している)"という意味になります(当時も現在も)。出版業界では "justify" は両端揃え等の、活字をきちんと並べることを指します。つまり、英語では倍音列に"合わせる"ことに意識が向いています。
"natural" のほうは根拠なく自然派なんちゃらを名乗っているわけではなく、弦の振動モードを観察して倍音列(日本語では自然倍音列ともいう)の概念を確立したうえでそれを指しています。この現象は1000年以上の(つまり周波数を測定する方法もなかったころからの)議論に耐えてきました。
周波数の比を指定するという形で "natural scale" を表現することもできます。つまり倍音列(理想形)の中の2音の比を特定して使うということです。なので、現在の用語の使われ方は歴史と多言語を踏まえたものになっています。とはいえ、和声の概念と語彙が拡大してきたのに伴い、"just intonation" が指す範囲も広がってきました。
でもまあ、順番に進めましょう。なぜ自然な/純正なチューニングという発想が生まれて、現在も有効なのか、ということについて。
基本周波数が 100 Hz の楽音があると、それに含まれる第2倍音が 200 Hz に現れ、第3倍音が 300 Hz に、第4倍音が 400 Hz に… はい、倍音は基本周波数の整数倍に現れます。
この単純な関係は、初めて聞く人にとってはなかなか信じがたいかもしれません。それがほかの思い付きと一緒くたになれば混乱もするでしょう。はい、これは驚異的なことです。でもすべての音がこういうスペクトルを持つわけではありません[2]。
もちろん我々は理想的な音を想定します。実世界では、音は揺らぐし、特定の倍音がない音などもあります。それでも倍音列と見なせるもの、バイオリン、その他弦楽器、人の声、木管楽器、これらのスペクトルは曖昧な現実においてこの一貫したパターンを守っているのです。
"natural scale" に従ってチューニングする場合、例えば完全5度は第3倍音と第2倍音の間の比である 3/2 となります。上記の 100 Hz の音に対して、完全5度上の音は、3/2 × 100 = 150 Hz となります。
基本周波数 100 Hz の音をド、基本周波数 150 Hz の音をソと呼ぶことにします。両方の音を同時に鳴らすと、それぞれに倍音が伴って、以下のようになります。
音名 倍音の周波数 (Hz) ド 100 200 300 400 500 600 700 800 900 ... ソ 150 300 450 600 750 900 1050 1200 1350 ...
倍音のいくつかが同じ周波数に重なっていることがわかります。こういう倍音はドとソを同時に演奏した場合に "融合" します。ドイツ語では Tonverschmelzung といいます。もしソが 148 Hz になっていた場合、その第2倍音は 296 Hz となり、300 Hz とは融合せずうなりが生じます[3]。脈を打つような音になり、その"心拍数"は倍音の周波数の差となります。この場合は 300 - 296 = 4 Hz であり、1 秒間に 4 回のビートのように聞こえます(別の言い方だと、120 BPM の曲で8分音符の繰り返しのリズムのように聞こえます)。うなりのないチューニングのほうを "pure" と感じる理由はここにあります。
One does not need to know of the harmonic series, nor even know how to read, or even count, to sing this.
There is more to it than this, of course, but the basic principles of just intonation are very simple. Hundreds of years ago, when the intonation of a few well-known intervals was the concern, understanding and defining "just" was not difficult. These days, though, and going on from these basics, it can get a bit more complicated...
脚注
- ↑ Sabat, Marc. On Ben Johnston’s Notation and the Performance Practice of Extended Just Intonation
- ↑ 鐘やゴングなどの打楽器、それにシンセサイザーの音は、独自の複雑なスペクトルを有します。インハーモニックな音はまた楽音なスペクトルの中から見つかる場合もありますし、楽音を出す楽器でもアタックの部分ではインハーモニックなスペクトルを示す場合があります。金管楽器を強く演奏すると、アタック部分では倍音がより高い周波数で鳴り、その後ノイズ(噪音)を伴いながら周波数が低下して定常状態の楽音になります。 A breathily played flute has a large addition of inharmonic material, a "jinashi" shakuhachi flute is an excellent example of an instrument of varying harmonicity and inharmonicity.
- ↑ 正確には、周波数が近くかつ物理的に相互作用できる状態の場合には共振が生じます。また、楽音の持続時間がうなりの周期に比べて長くなければ実質的にうなりは聞こえません。また周波数差が大きい場合もうなりには聞こえなくなります。