ヴァル

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これは初心者向けページです。 新たな読者がトピックの基本を簡単に学べるように書かれています。 対応する上級者向けページは ヴァルと調律空間 です。

ヴァル(英 : val)は音程をジェネレーターの連鎖の上で(つまり平均律上で)考える方法を表した線形写像である。これにより、純正律の音程が平均律で近似される。EDOとJIの間をつなげ、レギュラーテンペラメントのすべての基礎となるものである。EDOを参照するのにヴァルを使うことがよくある。それが大きいジェネレーター(ミーントーンの5度のような)の積み重ねとJIとの関係をも示していることは気に留めておいてほしい。

定義

ヴァルはそのリミット内のすべての音程を、含まれるそれぞれの素数がそれぞれジェネレーター何ステップ分になるかを単純に示すことで平均律にマッピングする。リミット内のどの正の有理数も素数の積として記述でき、素数をジェネレーターのステップ数にマッピングできることはつまりどの正の有理数もマッピングできるということを意味する。同様にしてヴァルはテンパーされた 3/2 やテンパーされた 5/4 がジェネレーターの連鎖のどこに位置するのかを示してくれる。

ヴァルは通常、a b c d e f] のように記述される。ここでスペースで区切られた項はそれぞれ 2, 3, 5, 7, 11, 13… のように素数に対応している。最後の最大の素数が リミット p となる。


EDOの例

5リミットのヴァルとして 12 19 28] を考える。このヴァルは、2/1 つまりオクターブに対するマッピングが 12 ステップであることを述べている。オクターブを 12 ステップにマップするテンペラメントは12平均律である。また、2/1 だけではなく、19 ステップがテンパーされた 3/1 を表し、28 ステップがテンパーされた 5/1 を表すことを明示的に述べている。

さて、この12平均律を7リミットに拡張することを想定する。もし12平均律の 10 ステップ (1000 セント) がテンパーされた 7/4 (本来は 968.83 セント) を表すという態度をとるなら、7/1 は、7/4 にオクターブを 2 個重ねたものだが、それは 10 ステップ + 12 ステップ + 12 ステップ = 34 ステップと等しくなる。この議論はしたがって、7リミットの 12 19 28 34] と表現できる。

もし何か奇妙な理由で 7/4 を 900 セントだということにするなら、それは 12 19 28 33] と表現されるし、7/4 を 123000 セントだとしたいなら、それは 12 19 28 1254] と表現される。

短縮記法

Wart notation

wartsとも呼ばれる記法。Herman MillerGraham Breedによって開発された。

この記法ではリミットについて別途記述が必要である。指定されたリミットにおいて、パテントヴァルは単純に先頭の数値(2/1 は何ステップか)で表される。例えば、17平均律の5リミットでのパテントヴァルである 17 27 39] は、17 と書ける。

任意のEDOのパテントヴァルは(EDOのOが純オクターブだとして)それぞれの素数音程が最も正確にマッピングされるステップ数を並べたものである。しかしながら、それ以外のステップ数を使いたい場合がよくある。例えば、5リミットのヴァル 17 27 40] は 5/4 を 353 セントではなく 424 セントにマップする。これは17平均律のパテントヴァルではないが、6/5 などほかの音程のマッピングが改善し全体のエラーが小さくなるため好まれる。非パテントヴァルはwartを末尾に付加することで特定される。wartはパテントヴァルからの偏りを示す。この場合では、5/1 を 2 番目に正確なステップ数にマッピングすることを指定したい。5 は 3 番目の素数なので、3 番目のアルファベットをオクターブ分割数の後ろに書いて、17c となる。

もし 5/1 を 3 番目に正確なステップ数にマッピングし、17 27 38] とするなら、17cc となる。17平均律の場合、5 の成分の近似ステップ数は近い順に 39, 40, 38, 41, 37, …となり、偶数個の"c"は小さい近似、奇数個の"c"は大きい近似となる: = 39, c = 40, cc = 38, ccc = 41, cccc = 37。(ほかの平均律やほかの成分では大小が逆になる場合もあるということ。)

一般的な規則:

  • wart文字はパテントヴァルから変化させたい素数を特定する。アルファベットの n 番目の文字は n 番目の素数を意味する: a~2, b~3, c~5, d~7, e~11 etc.
  • wart文字の m 回繰り返しはその素数にとって (m + 1) 番目に良い近似ステップ数を意味する。
  • なので、wart文字がない数字はパテントヴァルを意味する。
  • wart文字が数字の前につくことがある。これは何の素数音程を等分するのかを指定する。例えば、b13 は 13ed3 のパテントヴァルを意味する。オクターブを等分したい場合にわざわざ "a" をつけることは通常ない。
  • Graham Breedのtemperament finderでは、wart文字 "p" はパテントヴァルであることを明示することに使われる(文字の由来としてはパテントではなく素数"prime"の頭文字なのだが)。本来なら "p" は素数 53 を意味する。
  • Graham Breedのtemperament finderでは、wart文字 "q" とそれ以降は、特殊なサブグループの合成数や分数や53以上の素数の基底を表す場合に一時的にそれらに割り当てられる。
    • 本Wiki上では、アルファベットではない文字(*や†)に置き換えたり、基底が明示される記法が検討されたりしている。

Sparse Offset Val notation

2022年にMike Battagliaが提案した SOV notation はどの素数が変更されるかと変更される方向を明示する記法である。2024年にUps and downs notation (en) をヒントにさらなる改良が彼とLumi Pakkanenによって行われた。

一般化パテントヴァルは分割数とそれに続く空の角括弧からなる。例: 17[] for 17 27 39]

ある素数を1個多いステップ数にマップする場合は、その素数にキャレット (^) を前置して角括弧に入れる。例: 17[^5] for 17 27 40]

ある素数を1個少ないステップ数にマップする場合は、その素数に小文字ブイ (v) を前置して角括弧に入れる。例: 17[v5] for 17 27 38]

変更量に応じてプレフィクスを重ねる。例: 17[^^5] corresponds to 17 27 41]

角括弧内は半角コンマ区切り。例: 17[v3, ^5] for 17 26 40]

分割する等価音程を示す場合は分割数の前に角括弧に入れた等価音程を置く。例: [3]13[] for 8 13 19] (subgroup 2.3.5)

純正律サブグループを示す場合は一番最後にアットマークに続けて書く。例: 46[]@2.3.7.13/5 for 46 73 129 63] (subgroup 2.3.7.13/5)

素数でない基底の元(形式的素数 formal prime)も扱い方は同じ。例: 46[^13/5]@2.3.7.13/5 for 46 73 129 64] (subgroup 2.3.7.13/5)

アットマークの前の空の角括弧は省略可能。サブグループも文脈から明らかなら省略可能でアットマークはあってもよい。例: 12@ for 12 19 28] (subgroup 2.3.5)

2022年バージョンは (^) と (v) の代わりにそれぞれ (+) と (-) を用いていた。

純正律サブグループにおけるヴァル

モンゾとヴァルのコンセプトをp-リミットではない純正律サブグループに一般化することができる。subgroup temperamentsに対する複数の平均律チューニングを取り扱う場合に有用である。Gene Ward Smithがこれらを短く "svals" と呼んだ。

サブグループヴァルを書くには、典型的には、ブラ記法の前にサブグループ(基底とその順番も含めて)を明示する。例として、2.3.7 サブグループにおける12平均律のパテントヴァルは、2.3.7 12 19 34] と書かれる。サブグループが文脈で明らかなら改めて書かなくてもよいが、サブグループ記述子がないヴァルは何らかのp-リミットのヴァルであると思われがちなので注意すること。

同じサブグループを異なった基底で使うことができる――例えば、2.3.21 12 19 53]、これは 2.3.21 サブグループにおける12平均律のパテントヴァルである。サブグループとして 2.3.21 と 2.3.7 は同じものであるが、基底が異なることによりsvalも見た目上異なっている。だがこの2つは同じマップを表している。(同じsvalである、と言ってしまうと語弊がある。)


サブグループのパテントヴァルはp-リミットのパテントヴァルと一致しないことがある。例えば、13平均律の 2.9.5 のパテントヴァルは、2.9.5 13 41 30] と書け、9/1 が 41 ステップとなるが、2.3.5 サブグループ(=5リミット)のパテントヴァルは 3/1 を 21 ステップにマップする。2.3.5 パテントヴァルから誘導された 9/1 は、2.9.5 パテントヴァルで直接近似された 9/1 と同じにならない。

この記法はサブグループモンゾでも同様である。2.9.5 サブグループにおける 81/80 は、2.9.5 [-4 2 -1 と書かれ、上記の 2.9.5 13平均律パテントヴァルで 81/80 がテンパーアウトされることが簡単に確かめられる:

⟨13, 41, 30|2^-4, 9^2, 5^-1⟩ = 13*-4 + 41*2 + 30*-1 = 0.

レギュラーテンペラメントにおけるヴァル

テンプレート:Main

テンパードモンゾに対するテンパードヴァルを書くこともできる。テンパードモンゾは何かのレギュラーテンペラメント上の音程を表す(テンペラメントの音程は純正音程で指し示すこともできるが、テンペラメントに合った音程表記を考えれば、音程の関係を簡潔に表せるし、コンマポンプをコンマが汲み出されないように簡潔に書くことができる)。これらはtmonzotvalとも呼ばれる。典型的には、これは先頭にジェネレーターを書くことで明確化される。ミーントーンのようにテンペラメント上の音程に名前がついていれば、それらを使ってtvalを P8.P5 12 7] (ミーントーン音律を12平均律にマップするpatent tval)のように書ける。音程に名前がないなら代わりに代表的なJI音程を使い、テンペラメント名も併記する。(meantone) 2.3/2 12 7]、や (meantone) 2.3/2 31 18] のように。

ヴァルとマッピング

ヴァルはマッピングより具体的な概念である。数学的な意味でもRTT的な意味でも。

  1. ヴァルは 1 行だけのマッピングである。マッピングの各行はヴァルであるともいえる。数学的に正確に言うと、ヴァルは線型写像の一種で線型汎函数であり、出力がスカラーになるものである。モンゾと内積をとることでステップ数が得られる余ベクトルである。
  2. ヴァルの各項は整数に限る。(出力がステップ数でないもの等はmapと呼ぶ。)
  3. ヴァルは "valuation" (付値)の略であり、p-進付値素因数の重複度(分母の場合は負))の線型結合である。(?)

実用上は、RTTにおいて大体の 1 行だけのマッピングはヴァルである。ブラ記法の中に小数やlogが出てきたら、それは深く知りたい数学者でない限り無視していいものです。

関連項目