飽和、ねじれ、contorsion

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RTTにおいて、テンペラメントが飽和 (saturation)しているとは、その音程の集合がマッピングまたはコンマ基底から示唆される集合と一致していることを表す。マッピングが細かすぎる場合をcontorsion (contorted)といい、コンマ基底が粗すぎる場合をねじれ (torsion)という。

Contorsion

テンペラメントのマッピングがcontorsionを示す(contortedである)とは、そのジェネレーター音程の中に元となる純正音程との対応がつかない音程があることをいう。この対応のつかない音程をcontorted generatorといい、この音程は適切なジェネレーター基底(同じ意味のマッピングでもGenerator form manipulation (en) による変形で異なるジェネレーター音程の組(基底)が得られる)の下で、純正音程からのマッピングにおいて c×整数倍の形でしか含まれない。この c > 1 をcontorsion orderという。独立したすべてのcontorsion orderの積をoverall contorsion orderという。[1]

例えば、5リミット36平均律(パテントヴァルの36 57 84])は5リミットの純正音程をマップするのにオクターブ当たり12個の(12平均律と同じ)ピッチしか使わない。結局、他の24個の音程は使われず、36平均律は5リミットにおいてcontortedだということである。この場合のcontorted generatorは…ランク1なので平均律の1ステップが唯一のジェネレーターであり(1/36オクターブ)、これがcontortedでなければならない。このジェネレーターは必ず3の倍数個で使われ、contorsion orderは 3 である。より高ランクの例は、13リミット 87 & 111 で得られるhemimistテンペラメント [3 0 26 56 8], 0 2 -8 -20 1]] を2.5.7.11サブグループに制限したものである。これはピリオドが2.5.7.11サブグループのどの音程でもない(これを確かめようと思って手あたり次第に純正音程にこのマッピングを左から掛けてみても確信が持てない)が、ピリオドの3個積み重ねは 2/1 である(これはマッピングの先頭を見れば明らか)。これによりどうやらこのピリオドはcontorted generatorのひとつであるが、上記説明のようにcontorsion orderが求まる状態ではない。この例では、マッピング 2.5.7.11 [3 26 56 8], 0 -8 -20 1]] の1行目に2行目の内容をそのまま足す(generator form manipulationのひとつ)と1行目が 3 18 36 9] となりピリオドが必ず3の倍数個ずつ使われることが明らかになる。(これを確実に行いたい場合、#Saturation algorithmsを参照のこと。)

あるテンペラメントのサブグループに注目して、それがcontortedである場合、元のテンペラメントより楽に(オクターブ内や楽器)全域の音にアプローチできる。または使用する鍵数が減ったのに合わせて鍵盤を再設計してもしなくてもよい。

ねじれ

テンペラメントの定義がねじれを示すとは、そのアーベル群としての定義がねじれを含んでおり、したがって全順序であるピッチの集合にそのまま変換することができないことをいう。

テンペラメントをコンマ基底で定義することを考える。例えばミーントーンは 81/80 = [-4 4 -1 をテンパーアウトする。これはもともとあった5リミットの音程の3次元格子が、「5/1 と (3/2)^4 を同一視する(すなわち 1/1 と 81/80 を同一視する)」という条件により 5/1 の方向の点が片付いて2次元格子に縮小することになる。下図はオクターブ方向を無視して 5/1 の方向と 3/2 の方向による2次元格子を考え、5/1 と (3/2)^4 が重なるように巻くと2次元格子のすべての点が1本のらせんに乗る(1次元格子)ことの模式図である。

では 81/80 ではなく (81/80)^2 = 6561/6400 = [-8 8 -2 をテンパーアウトするという定義にしたらどうなるか? この定義は 81/80 を 1/1 と同一視しろとは書いていない。格子のたとえで言うなら巻き付け方を2倍に緩めて、全ての (81/80)^n をテンパーするはずだった音程が (81/80)^(2n) をテンパーしたもの(1/1を含んでいるので仮に"1/1"と呼ぶことにします)と (81/80)^(2n+1) をテンパーしたもの(81/80を含んでいるので仮に"81/80"と呼ぶことにします)に分裂することになる。そして ("81/80")^2 = "1/1" となり、"81/80" の方向はべき数 2 のねじれ部分群となる。

ここまでが純粋に抽象的な群の定義として見た場合である。ここからレギュラーテンペラメントとしてピッチへのマッピングを目指すと、(81/80)^2 = "1/1" が 0 セントである以上 √(81/80)^2 = "81/80" も 0 セントにするしかなくどうしても同じ音程を表すことになる。もし仮に周波数が複素数であるとか、周波数と空間オーディオの音源位置情報を各音符に盛り込むとかいうことがあれば、これを過不足なく写すマッピングを

[math]\displaystyle{ \left[ \begin{array}{rrrrrl} +1200 \mathrm{cent} & \langle & 1 & 1 & 0 & ]\\ +697 \mathrm{cent} & \langle & 0 & 1 & 4 & ]\\ +\pi \mathrm{radian} & \langle & 0 & 0 & 1 & ] \end{array} \right] }[/math]

などと組み立てることができるが、実数の周波数のみが求められているのであれば3行目を残しておく余地はない。つまり3行目のねじれ部分群が生じるような定義はRTTのスコープ外と考え、最初からきちんと 81/80 がテンパーアウトされるようにコンマ基底を正規化するべきだということである。

ねじれはcontorsionと違ってマッピング行列に残らない問題である。群論の言葉を使わずに表現すると、テンパーアウトされているコンマを見落としていて「必要な純正音程のリスト」が無駄に長くなっている状況である。

Saturation algorithms

飽和していないマッピングやコンマ基底を飽和するように修正することができる。これによってマッピング行列だけでもっとも単純に、そして一意にテンペラメントを特定することができる。マッピングを飽和させるもっとも簡単なアルゴリズムがcolumn Hermite defactoring (en) である。詳細はDefactoring algorithms (en) を参照のこと。

歴史と用語

saturationは1972年にニコラ・ブルバキが生み出した、可換環論の用語である。[2]

torsionは少なくとも1932年からある群論の用語である[3][4]。歴史的に、RTTにおいてコンマをテンパーアウトすることに関して群論での定式化が行われ、あるコンマをテンパーアウトせずにその累乗をテンパーアウトすることが音楽的に不可能であることが見いだされた。現在では線形代数による定式化が好まれ、不可能性というより無意味性として受け流されている。contorsionはRTTのために2002年にPaul Erlichによって発明された用語である[5]。"co-torsion"、つまり"torsion"の対になる状況を指す言葉である。(ただsaturationの意味では似ていてもねじれ群との関係は正直に言って存在しない)

Dave KeenanとDouglas Blumeyerはsaturationの代わりにdefactoredtorsioncontorsionの代わりにenfactoredという用語を提案[6]し使用している。(上記saturation algorithmがマッピング行列やコンマ基底行列に行うことがdefactoringであることからも自然な用法ではあろう)

脚注