パテントヴァル
あるオクターブ平均律におけるパテントヴァル(patent val、特徴的なヴァル)または最近傍マッピング(nearest edomapping)とは、その平均律チューニング(純正律との対応を定めていないただの等間隔ピッチ集合。以下仮に n-等分律と書く)において各素数音程を最近接丸めして得られるヴァルのことである。この際オクターブは純正(誤差なし)とする。これの基本的な使い方は素数音程をステップ数に丸めて、それをもとに任意の純正音程のステップ数を求めることである。
例えば、17平均律のパテントヴァルは ⟨17 27 39] であり、それは 2/1 の最近傍マッピングは 17 ステップであり、3/1 の最近傍マッピングが 27 ステップであり、5/1 の最近傍マッピングが 39 ステップであることを示す。このことはすなわち、もしオクターブが純正ならば、3/2 は 706 セントであり、本来の 3/2 が17等分律にある一番近い音程に丸められている。そして 5/4 は 353 セントとなり、こちらも本来の 5/4 を17等分律にある音程に丸めて得たものである。
一般化パテントヴァル
このヴァルの概念はオクターブのステップの数について、整数から実数に拡大されることができる。これを一般化パテントヴァル(generalized patent val、GPV)と呼ぶ。例えば、16.9edo(これは16L 1sなMOSスケールではなく、169 ステップで 10 オクターブになる等分律を表す)のための7リミットにおける一般化パテントヴァルは、⟨17 27 39 47] であり、16.9 × log2(7) = 47.444 であることから、7/1 を 48 ステップではなく 47 ステップに切り下げている。

パテントヴァルに加えて検討する価値のあるマッピングが存在する。5リミットの17平均律を考えよう。⟨17 27 39] がパテントヴァルであり、これは各素数をそれぞれ最近接丸め(再確認、パテントヴァルは純オクターブつまり整数edoを想定する)したものである。しかしこの規制を解除するなら、5/1 の「次に良い近似」を利用できるようになって、我々が気に掛ける協和音全体の被害を軽減できる。言い換えると、39 ステップは 40 ステップよりわずかに素数 5 に近いのだが、これは素朴すぎる選択であって、他の素数との組み合わせで誤差が打ち消されたり強め合ったりする効果を考慮に入れていない。この問題を深く考察すると ⟨17 27 40] という選択肢が浮かび上がってくる。また ⟨17 27 39] より ⟨17 27 40] を選ぶほかの理由もある; それは異なるコンマをテンパーアウトする。
⟨17 27 40] は17.1edoのパテントヴァルつまり一般化パテントヴァルであり、17.1 × log2(5) = 39.705 は 40 に切り上げられる。本質的にそこにはあるジェネレーターの存在があり、そのサイズは 21/17.1 である。これには 17、27、40 ステップがそれぞれ素数 2、3、5 の最良近似になるという事実が伴う。これはつまり、我々は素数を真実に一番近いものにしないように「強制」しているわけではないということである。そうでない(している)例が ⟨17 27 41] である。2 を 17 ステップに、かつ 5 を 41 ステップにマップするジェネレーターサイズを見つけることはできるが、それは必ず 3 を 28 ステップにマップするものになる。(今のは雑な例だが、ミーントーンであって1/2コンマミーントーンに近い ⟨59 93 136 163] (59bcddddd) なども一般化パテントヴァルでは表せない。まあ59edoならflattertoneである59bcdと解釈するほうが自然ではありこちらはGPVである。)(可能な組み合わせは右図から容易に読み取れる。)
一般化パテントヴァルはまたの名をuniform mapという(そしてパテントヴァルの別名がinteger uniform map、またはsimple mapとなる)。
詳細な説明
p-リミットのヴァルは p までの素数それぞれを何ステップで表すかを示す数値を並べたものである。
⟨[2/1] [3/1] [5/1] [7/1] … [p/1]]
与えられた N-edo、つまりオクターブを N 等分する等分律について、特定のステップ数と素数との間をマップするヴァルを定義することができる。
任意の素数 p について対応する p-リミットのヴァルを次の規範的な方法で見つけることができる: ⟨1 log23 log25 … log2p] を N 倍(スカラー倍)してから各要素を整数に丸め(四捨五入す)る。一般的にはこれは可能な中で最も正確なヴァルであることを保証されないが、N-edo が p-リミットに応じて十分正確であるならば、そうなるであろう。patentという名前はその意味の一つが "obvious" と同義語であることからくる。パテントヴァルはベストチョイスだったりそうでなかったりするが、簡明で明白な選択肢である。
この工程の考え方の一つが次の問いを立てることである、「各素数を得るのにいくつの 1200 セントなステップ(つまりオクターブ)が必要だろうか?」 すると 2/1 を得るのに 1 個の完全なオクターブが必要で、3/1 を得るのに log23 個分が必要で、5/1 を得るのに log25 個分が必要で、以下同様。これにより ⟨1 1.585 2.322 2.807 3.459 … log2p] を得る。
次の問いは、「それらの同じ場所にいくつの N-edoのステップで到達できるだろうか?」 例えば12edoだったらオクターブを 12 等分するので先ほどの「オクターブ何個分」を 12 倍すればよい。31edoだったら 31 倍すればよい。
なので、N-edoのための p-リミットのパテントヴァルは ⟨1 1.585 2.322 2.807 … log2p] を N 倍し、そういえば等分律のステップをさらに細かくするようなことはできないので、結果を一番近い整数に丸める。
同様の工程をオクターブ数ではなくセント値を媒介にして行っても同じである。1200*log2p セントの素数音程に 1200/N セントのステップがいくつ分で到達するか → (1200*log2p) / (1200/N) となり本質的に N 倍と同じ計算である。