「なぜ非12平均律を使うか」の版間の差分

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普通の音楽家に一般と異なる[[音律|調律]]について話すとき、大概は「なにがしたいの?」と返される。なので、以下にその有名な理由をいくつか綴った。  
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普通の音楽家に一般と異なる[[音律|調律]]について話すとき、大概は「なにがしたいの?」と返される。なので、以下にその有名な理由をいくつか綴った。


== 新しいこと ==
== 新しいこと ==

2026年7月18日 (土) 10:03時点における最新版

普通の音楽家に一般と異なる調律について話すとき、大概は「なにがしたいの?」と返される。なので、以下にその有名な理由をいくつか綴った。

新しいこと

この世の99.9999999999%の音楽にはある共通点がある。それは、十二音名であり12平均律であること、したがって利用可能な音階、和声進行、音階も同じであるということである。 非12平均律を使えば、事実上これらすべてを無限に組み合わせることが可能になる。音の数も、音同士の関係性も、全て望むままに設定可能なのである。これほど多くの調律が存在するにもかかわらず、12平均律のみを使用することは、Aeolian、Mixolydian、Dorianといった他の旋法があるにもかかわらず、Lydianのみを使用することに例えられる。

協和志向(若しくはその逆)

歴史的及び実用的に、12平均律は、協和という観点から見れば、「音程(en)がずれている」とさえ言える。例えば、長三度は純正長三度より13.7セント高く、短三度は純正短三度より15.6セント低い。また、純正律には12平均律ではほとんど近似できない音程も存在し、多くの人はそれらが純正で鳴る場合も、ずれて鳴る場合も耳にしたことがない。このような、より純正音程は、独特の音響的な性質(buzziness)をもたらすことがあり、 非12平均律を用いることでそのような和声を表現可能である。方で、12平均律にはない、更に不協和な音程も存在しており、そういったものも表現可能である。

新しいメロディ

旋律を作る際、音楽家は一般にダイアトニックペンタトニックの旋法を用いることが多い。必要であれば、12平均律と似た構造を持ちながら各音程を異なる値に調律した音律を使用することもでき、その結果として、例えば長調と短調の性格の違いをより強調したり、逆に弱めたりすることが可能となる。

しかし、12平均律で利用可能な音階構造は比較的限られている。完全四度と完全五度だけが、半音階的な移動を伴わずに12音すべてを巡回できる音程だからである。実際には、他にも数多くの音階が考えられるが、その大部分は12音という枠組みでは表現できない。

ダイアトニックは一般に「全音5つと半音2つ」から構成されると説明されるが、「全音」と「半音」という概念は12平均律およびその倍数分割に固有のものである。そのため、より一般的には「大きなstep5つと小さなstep2つ」から成る音階として捉える方が適切である。大きなstepと小さなstepのさまざまな組み合わせによって定義される音階は無数に存在する。例えば、大きなstep4つと小さなstep3つから成るものはHanson scaleと呼ばれ、大きなstep2つと小さなstep5つから成るものはアンチダイアトニックと呼ばれ、これはtrismegistus temperamenなどに特徴的である。また、大きなstep5つと小さなstep4つから成るものはemiquartal scaleとして知られている。

一方、音階の中には、ステップサイズの数によって定義されるのではなく、最も安定して純正に近い音程を採用することで構成されるものも存在する。このような音階では旋律上の音程間隔が非常に不規則となるため、従来とはまったく異なる旋律的な印象が生まれる。もちろん、これらは新たな旋律構造を生み出す無数の方法のうち、ほんの二例にすぎず、その多くは12平均律では演奏不可能である。

さらに、ボーレン=ピアース音階(en)のように、そもそもオクターブを基準としない音階も存在する。この音階は標準的な調律では「全音4つと半音5つ」から構成されるが、2:1のオクターブを同値関係の基準とせず、代わりに3:1(完全十二度)を等価音程として採用している。

歴史的文脈

12平均律が主流となったのは19世紀初頭のことである。それ以前に於いては、調律というのは当たり前に存在する表現の選択肢の一つであった。様々な時代の変遷によりそういった表現は全て12平均律に集約されたが、このかつての作曲家の選択を12平均律に押し込めるというのは「その音楽が本来持っていた性質の一部が失われた」と考えることができる。

これをよく説明する調律群の一つが、17世紀後半から使われた「ウェル・テンペラメント」である。1681年にドイツの音楽理論家Andreas Werckmeisterが考案した音律Werckmeister IIIなどが代表的である。ウェル・テンペラメントというのはオクターブを12音に分割する点では共通しているものの、各音程はわずかに不均等に配置されている。その結果、それぞれの調には個性が生まれる。この考え方は、バッハ平均律クラヴィーア曲集の着想源となっており、各調の固有の性質を示すために、それぞれの調ごとに作品が作曲された。

更に、ウェルテンペラメントの前駆として挙げられるのが「中全音律」である。これは、すべての完全五度の大きさを調整することによって音程の協和を調節し、特定の調及び音程を破綻させることにより高精度な協和を得る調律法である。場合にもよるが、ほとんどの場合、協和はウェル・テンペラメントより高く、発生する不協和の破綻はウェル・テンペラメントより大きい。

そのまた昔、さらにそれ以前、中世末期まで広く用いられていたのがピタゴラス音律である。長三度・短三度は、12平均律におけるもの以上に純正律から大きく外れている。中世の音楽では、三度は安定した協和音程ではなく、四度・五度・オクターブへと解決されるべき落ち着きのない不協和音程(en)として扱われていた。

このように歴史をさかのぼるほど、その時代の音楽様式に適したさまざまな音律が存在していたことが分かる。要するに「失われたかつて音楽が本来持っていた性質の一部」を適切に取り戻すという趣旨である。

文化的文脈

この世の音律12平均律のみでは決してない。世界を見ると、それぞれ独自の調律体系が発展しており、その多くは12平均律では十分に近似することができない。したがって、それらの文化の音楽を本来の姿に近い形で演奏したいのであれば、楽器や演奏様式だけでなく、音律についても再現する必要がある。

例えば、アラブ音楽とペルシア音楽に於いては、所謂「中立音程」がよく使用される。これは12平均律外の音である為、通常の音楽では再現ができない。又、インドネシアガムランではおもに2つの調律を使うが、そのどちらも西洋音楽の12平均律からは大きく異なっている。その一つであるスレンドロは、およそ5平均律に近い音程を持つ。もう一つのペロッグは、9平均律の7音部分集合に近い構造を持ち、さらにオクターブを広く取るStretched octave(en)が用いられることも少なくない。

さらに、アフリカで見られるマリンバに類似した打楽器の多くは、7平均律によって良好に近似できる音律を採用している。

コンマを緩和する(若しくはその逆)

音律は奇妙な偶然を有することがある。例えば、12平均律に於いて、長三度は三回積み上げるとオクターブに戻るというのは良く知られた話だが、非12平均律に於いてはその限りではない。長三度といっても多くの種類がある。ピタゴラス長三度や純正長三度など様々な表現が可能であるが、純正長三度を用いて考えるとき、それを同様に3回積み上げてもオクターブになることはない。

[math]\displaystyle{ \left(\frac{5}{4}\right)^3 = \frac{125}{64} }[/math]

[math]\displaystyle{ \frac{125}{64} \neq \frac{1}{1} }[/math]

このようなズレのことを、一般に「コンマ(en)」と呼ぶ。このコンマは小ディエシス(en)と呼ばれる。

このコンマを利用した表現(或いは破綻)としてコンマパンプ(en)というものがある。例えば、5-limit純正律で(I -> VI -> II -> V -> I)といった進行を考える。共通音を同じインターバルに保ちつつ、それぞれのコードでの協和を最大限にすると、最後のCは最初のCよりわずかに低く着地する。このズレの大きさが81/80、セント値にして約21.51セントで、これがシントニックコンマ(en)である。

もう一つ挙げるならば、コンマ(en)を利用した表現について、12平均律31平均律(或いは似た調律)について興味深い現象が見られる。例えば、12平均律の半音というのは1stepであり、半音を積み上げて完全五度に移るとき、その積み上げ回数は7回である。一方で、31平均律というのは異名同音の区別がしっかりしているので、半音階的半音と全音階的半音に半音が区別可能である。半音階的半音は2stepで、全音階的半音は3step、そして完全五度は18stepである。両者の半音について音を積み上げて完全五度に移るとき、半音階的半音だとその積み上げは9回、全音階的半音だと6回である。

C -> C#/Db -> D -> D#/Eb -> E -> F -> F#/Gb -> G

12平均律だと異名同音を区別しないので積み上げ回数は7回

C -> C# ->Dd -> Dキ -> Eb -> E -> Fd -> Fキ -> Gb -> G

31平均律で半音階半音を用いると積み上げ回数は9回

C -> Db -> Dキ -> Ed -> Fd -> F# -> G

31平均律で全音階半音を用いると積み上げ回数は6回

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